退職できない時は労働基準監督署へ駆け込んでも意味がないって本当?
労働基準監督署(以下、労基署)は労働問題を解決してくれる公的機関です。
「会社とトラブルがあった時は労基署へ駆け込めば、労働者の味方になってくれる」というのは常識ですよね。
「退職できない時は退職代行に頼むまでもなく、労基署へ言いつければOKでしょ」と思っている方も多いのではないでしょうか?
労基署の労働基準監督官は「特別司法警察職員」であり、労働関係法令違反等に対して「司法警察権」を行使することができます。
逮捕(現行犯逮捕・緊急逮捕・令状逮捕)、逮捕の際の令状によらない差押え・捜査・検証及び令状による差押えなどの権限があり、労働問題についての “警察” でもあり “検察” でもある強力な権限を持つ行政機関です。
しかしながら労基署は実は万能ではありません。今回はそんなお話です。
まずは実際にあった事例を見てみましょう。
1. 退職を会社が認めないと労基署に行ったが何もしてくれなかった…
Aさん(正社員)は会社でのパワハラに悩んでいました。
このままでは精神が壊れてしまうと考えたAさんは、退職を社長に切り出したのですが「退職は認められない」と断られてしまいます。
その後も日々続く経営者のパワハラで疲れ果ててAさんは体調不良となり、ついには心療内科に行くことに。
たまらずパワハラの記録メモと診断書を手に労基署へ助けを求めに行ったのですが…
労基署の係員は話を聞いてくれたものの「退職は管轄外」とのことで退職届を会社へ出してみることをアドバイスしてくれただけ。
パワハラについても「民事の対応となるのでこちらでは何もできない」と言われてしまいました。
結局、労基署で解決できなかったAさんは退職代行に相談して無事退職できたのですが、労基署が対応してくれなかったことについては最後まで釈然としなかったご様子でした。
1-1. 労基署は労働基準法の範疇でしか動けない
皆さんが「会社と労働者のトラブルを解決してくれる」と考えている労基署ですが、実は労働基準法に違反していれば行政指導をしてくれるに過ぎません。
労働基準法は「有給や賃金といった労働条件」や「解雇のルール」「職場の安全衛生」について定めた法律で、例えば「給与の未払い」であれば会社へ是正を求める行政指導をしてくれます。
Aさんの場合は「会社が退職させてくれない」という問題を労基署に持ち込んだのですが、労働基準法には「退職」も定めた規定がない為、労基署は対応することができませんでした。
ちなみにAさんは正社員ですが、正社員の退職については「民法」に定められています。
いかに労基署に強力な権限が与えられていてもそれは労働基準法に関わる範囲内で、管轄外の法律に対しては対応ができません。
1-2. 労基署は民事不介入
さらにAさんは「パワハラ」についても労基署に相談しましたが、パワハラと退職には因果関係はあるとしてもパワハラは民事の扱いとなる為、対応できないと言われてしまいました。
労基署は原則「民事不介入」で、パワハラなどのハラスメントは「する側の個人」対「された側の個人」の民事とみなすことがほとんどです。
簡単に言えば「パワハラを解決したいのであれば個人間の訴訟で対応してください」という考えなので、職場でのハラスメントを訴えても積極的に取り上げてはくれません。
2. 労働基準監督署は万能ではない!
強い権限を持つ労基署ですが、ここまで触れてきた通り、強権を発動してくれるのは限定的と言えます。
「有給をくれない」「賃金を支払ってくれない」といったケースでは強い味方になってくれますが、退職についてはアドバイスをしてくれる程度で問題解決に手を貸してはくれません。
「労働基準監督署は万能ではない」ということを知っておくようにしましょう。
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